お金もねぇ。スケジュールもつまり気味。そんな案件。
タイトルは「おぢさん」としたが、これはまだワシがギリギリ20代の頃の話しじゃ。
あの頃はまだ、フリーランスでは無く先輩たちと立ち上げた事務所に席を置いておった。
お金も無い。スケジュールもない。モラルもない。でも要望だけは譲らない。
この仕事をしていれば星の数ほど降ってくる、そんなお仕事のひとつなのだが。
(疲れるから口調を普通に戻します……。)
クライアントさん
「進行中の案件についてですが、オリジナルの女の子キャラ描いてください。追加で。」
僕たち
「承知いたしました。それでは、ご予算とスケジュールの見直しを……。」
クライアントさん
「え?お金取るんですか?絵を描くだけでw??」
僕たち
「あ〜……。じゃあ、せめてお時間を……。」
クライアントさん
「いやw絵を描くだけでw??」
冷静ないつもなら、当然お断りする案件。
でも、この時はいくつかのミスをした。
それは、ここまで地獄の徹夜進行で推し進めてきた案件を突き返す事に「もったいない」を感じてしまった事。
疲労で誰も冷静では無かった事。
あの日、あの時。全員が冷静じゃあなかった。
兎にも角にも、冷静さを欠いてうっかり「じゃあ、何とかしましょう」って言ってしまったゴミ仕事。
請け負ってしまったものは仕方が無い。
まず、予算はない。
もちろん、自腹を切ってイラストレーターさんに外注するのも手。……かもしれないけれど、それをしてしまったら絶対にダメ。
クライアントの無茶にお付き合いし過ぎな時点でもうヤバいのに、更にお金をあげながら仕事をするっていう、わけのわからない事態になるので。
ともかく、請けてしまった以上はやる。
コレも経験だと割り切って。
そして、まず僕らはイラストを描く人をじゃんけんで決め、進行することにした。
そしてその、じゃんけんで負けた彼は言った。
「女の子のポーズどうするの?俺、普段描かないよ?」
今から思えばこのひと言で済んだんだ。
「ネットでもなんでも、参考にしちゃえ。」
ただ、あの日あの時、僕らは全員頭に血が上っていた。
誰一人として冷静じゃあなかったんだ。
そして僕はこう発言した。
「じゃあ俺、女の子役やるよ」
そして、都内の小さな事務所は、小さな地獄に変貌した。
デジカメを構えるおぢさん。
「いーね!いいよ〜!目線、こっちちょうだいね〜!」
僕
「え、こ……こうですか〜?」
地獄絵図、ノリノリである。
おそらく、このあとそんなおぢさんポーズを見ながら、慣れない女の子キャラを描くことになった彼こそが、本当の地獄を味わったはずだが。
そこはそれ。
己のじゃんけんの弱さを恨め。
色々とあった。教訓にしよう。
そして教訓。
★クライアントは「無茶だとしても、とりあえず要望をぶつけてみる」そんな生き物である。
★クライアントの無茶は企業人の習性のような物なので、担当者に腹を立てても意味が無い。
★お仕事の打ち合わせは冷静に。
★引き受けたなら、もっともっと冷静に。
★ポーズ集(市販)は、いざという時に役立つ。
★それでもどうしても女の子役をする時には、せめてヒゲを剃れ。(美は内面から!)