自営業デザイン屋さんのよもやまブログ

これ、愚痴とかそういうのじゃないですのよ? 気合いの入ったキャラ立ちした皆さまを忘れたくない一心でつい。

デザイナー

このミスだけは「もう終わりだ」と思った。

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ミスはすぐそこに。

広告デザインなんて稼業をしていると、洒落にならないようなミスとは常に隣り合わせ。

この業界、ホント綱渡り進行が多いのです。
印刷入稿30分前に、クライアントさんの上層部から大型修正が飛んできてバタバタしたり(それでいて納期は当然ずらしてもらえない)。

印刷が全て済んでから追加修正が届いて、ちょっとした口論になったことも。
タイムマシンを用意してから来い。

数えだしたらキリが無いのでこんなもんにしてやろう。

とにかく、入稿直前は睡眠不足でフラフラなのに、そこに急遽の修正がバラバラ、バタバタと届くので、実はノーミスの方が奇跡かも?っていうくらい。

そんなシリーズで、過去もっとも「やっちまったな」感が強かったミスを思い出してみよう。




通信販売カタログで、最も大事な箇所ってどこだ?

あれは、そう。
某小さな通信販売会社の、会員向けカタログを発行しようっていう案件だった。

連日の徹夜続きで感覚は麻痺していた。
そのせいか、季節は覚えていない。

通信販売のカタログ制作で、もっとも気をつけなければならない箇所ってどこだと思う?

写真の見栄え?
わかりやすい導線を備えたレイアウト?
人によっては「配色こそ全体のイメージを……!」とか言い出すかもしれない。

確かにそれらは全て大切。
……だと思う。

ただキミ達は「これだけは絶対に!」っていう箇所を見落としている。

それは……。
「商品注文用の電話番号」だ!!!

2018年の今であれば、通販もほとんどがネット通販かもしれないが、あの頃はまだまだ通販カタログをめくりながら欲しい商品があれば電話で注文という、優雅なお茶の間スタイルが幅を利かせていた。

カタログのキャンペーン期間中ともなれば、通販会社も気合いを入れてオペレーターの増員なんてしちゃったりして。
まあ、とにかく鼻息を荒くして待ち構えていたりしたわけだ。

そして、その全ての入口になるのが「電話番号」だ。

もうお気付きだろう。
そう、私はやらかした。

通販カタログの注文用電話番号の誤植を!!!

……とはいえ、これって私のせいでも無かったんだけど。




忠告だ。クライアントからの最終原稿は捨てるな!

このカタログ自体なかなかのデスマーチ進行で終わらせたわけだが。

兎にも角にも、本当の地獄はここからだった。

向こう3日間のキャンペーン期間。
まずおかしいと思ったのは、開始のわずか数分後らしい。

いつもなら、オペレーターさんが一気に対応を始めるのだが、この日はまったく注文が来ない。

そして、悪夢のような知らせはやってくる。
やたらと、その通販会社の代表番号が鳴るというのだ。

立ち止まっている場合じゃない。
キャンペーンも始まってしまったので仕方が無い。

かくして、オペレーターさんでも何でもない内部の事務の社員さんが、できる限り注文を取るという地獄が始まった。

そしてさらに数分後、クライアントからお怒りの電話。
最初から訴える気を隠そうともしないテンションで。

クライアント
「もしもし!おい!!!カタログの電話番号、代表番号じゃねえか!!!損失どうしてくれんだ!?」

「(体中の体温が下がるのを感じながら)……え?」

クライアント
「オペレーターも無駄。事務所も電話応対で仕事ストップだぞ!」

私(社内の校正マンとアイコンタクト&筆談)
「え……とですね。頂いている最終原稿が手元にあるのですが、刷り上がりと見比べてもミスは無いようですが……。」

クライアント
「……あ??」

「まさか、御社の原稿が間違えてましたか??」

クライアント
「…………。あとで、損害の分担について話したい。……来てもらえますか?」




いいや、10:0だ。……と、したかったが。

と言うわけで、怒濤の3日間のキャンペーンが終わった後、改めてクライアントの元へ赴いた。

先日、引くに引けなくなったクライアントからの呼び出しに応えるためにだ。

カバンの中には、証拠となるクライアントのミスが残った最終原稿。
ちゃんと時系列が分かるような、やり取りのメールの出力。
最後の最後に届いた、クライアントチェックの赤字校正紙。

「これだけあれば、間違いなく……クライアントの息の根を……。」

後は駆け引きだが、赴いた際すでにクライアントの鼻息は収まっていた。
どころか、電話で怒鳴りつけてきた事に対する罪悪感すら見て取れた。

ところが、相手も会社を背負った会社員。
上層部から言われているのか、とにかく5:5の損害分担をとジャブを撃ってくる。

こちらとしては冗談ではない。
はっきり言って「原稿に載っていない情報なんぞ知るか!!」なのだ。

気分は10:0だ。
過失は100%クライアント側だ!!!

……と、そのつもりで乗り込んでいたのだが。
話し合いをしているうちに、こちらが攻めすぎたのか目に見えて沈み込むクライアント。
(もちろん、それが作戦なのかもしれないが)

そして、敢えてその場では言わなかったが、私も気がついた。
「代表番号なら、最初にもらった名刺に書いてあるから……。こちらでも気付きの可能性はあったのか……。」

この案件、実は担当氏と携帯でのやり取りに終始していた。
そのため、名刺に載っている代表番号に接する機会がなかったのだ。

別の案件では、カタログの番号に試しに電話してみるというテストもするのだが……。

この案件に関しては「まだオペレーション会場の準備が」だとか、とにかく時間が無いだとかで「数字周りとか特に、最終チェックお願いしますね!」と、クライアント側に任せてしまったのだ。

それも、確認を最後までもっともっと強く押しておけばよかったといえばよかった。

そして譲歩。心の中の気付きは敢えて伏せて。
あくまでも恩に着せるスタイルで。

私は言った。
「では、9:1で。」


ネット上の新職業!?「自称ディレクター」とかいうアレ

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インターネット経由でお仕事が回る時代

2018年も折り返しの時点で、こんな事言っちゃうのも今更感がとんでもないことになってしまうのですが、敢えて言います。

「インターネットって凄いからね」

以前は、デザインの仕事を獲得するためには、色んな広告代理店やら印刷会社さんやら、時にはクライアントさんに直接、飛び込み電話してみたりとか、自分の宣伝用のお手紙(ポートレート付き)とか送ったりとか。

そうこうしているうちに、少しずつ顔を知ってくれるお客さんが増えて、そのお客さんの紹介だとかで案件をゲットしていったわけですよね。

ちなみに、友人や知人からの「ちょっと無料でお願いよ」は、お仕事にカウントしていません。
あれはお仕事ジャナイ。お付き合いの範囲で、自己責任でどうぞです。

話を戻してインターネット。

実は僕自身、最近ではネット経由でお仕事の問合せをいただく事もあります。
そのお客さんの所在地も関東近郊のみならず、全国各地に渡ります。

そして、ネットの問合せからスタートして、打ち合わせから最後の納品まで一度も顔を合わせずに進める案件もチラホラです。
案件によっては、電話すらしないでメールのやりとりのみという事も。

そんな便利なインターネットですが、顔を合わせずに仕事を流すハードルが下がってきているので、ここに来て新たな生きものが誕生します。

インターネット上の「自称ディレクター」さんです。

顔を合わせずに仕事を回せるので、経歴詐称(他人の作品を自作と言い張る等)や演技力でクライアントさんから仕事を獲得してくる人たちです。




自称ディレクターという職業(?)

僕の所にもそんな「自称ディレクター」さんからお仕事依頼が来る事もあります。
最初の内は、僕も普通のディレクターさんだと思って接していました。

しかし、とにかく話しが通じない。

なんといいますか、業界にいる人ならコレを知らなきゃどうするの?っていうレベルの話しですら通じない。

実はディレクターには大きく分けて2系統あります。
デザインやライティングの現場出身のディレクターさんと、代理店営業等の営業畑出身ディレクターさんです。

前者は制作やクオリティ維持についての旗振りが得意で、後者は企画や進行管理が得意分野です。

インターネット上のフリーランスディレクターさんの全てがそうだとは言いません。
言いませんが、僕が接した数人の「自称ディレクター」さん達は、その全てが偽物でした。

ざっと惨状を羅列してみても

★クライアントさんと打ち合わせをしない(メールの横流しのみ)
★クライアントさんに提案が出来ない(頼まれた物をそのまま作ろうとする)
★そもそも自分でラフも描けない(クライアントさんに提案できない)
★常識外れの低単価を、真顔で当たり前のように言ってくる(A4表紙デザインを3千円で!等)
★こちらからの確認事項を、クライアントさんにそのまま直接伝える伝書鳩状態。
★進行のスケジュールを平気でやぶる。
★イラレで普通に制作した物を、納品当日に「じゃあ、エクセルに変換してください」とか言う。
 (もちろん、スタート時に制作環境の確認済み)

などなど……。枚挙に暇がございません。

コレも全て、インターネットのみで顔を合わせずに仕事を回すハードルが下がったが故に生まれてしまった負の職業だと思います。

本当は便利なハズなのに。
インターネットで全部完結したら、便利なハズなのに。

顔を隠しながら仕事が出来るから、嘘をつくハードルまで下がってしまったのでしょうか。

とにかく、この「自称ディレクター」の案件に真剣に向き合おうとすると、心身共に削り取られます。
フリーランスでデザイナーをやっていると、それでもすがりたくなる低迷期ってありますけどね。
だから、絶対に相手にするなとはいいません。

言いませんが……。

この「自称ディレクター」は劇薬です。
用法用量を守って、計画的にご利用してください。


そしてわたしはカレーを作る(待ち時間)

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クライアントの「原稿すぐ送ります!」は信じて良いのか?

「原稿……。いま、いま送るところなので少々お待ちください!!」
クライアントさんなり、代理店の営業さんなりがかなりの頻度で言ってくるお言葉。

デザイナー側には毎度毎度
「まだ上がりませんか?」
「見られるところ少しでもあればください!」
「はやく!クライアント待たせちゃうから早く!!」

とか言いまくってくるのにね。

フリーランスにとって、この時間けっこうもったいない。
でも、向こうは「今送ります!」って言ってきているので、どこかに出掛けるのも他の打ち合わせを先に回すのも動きにくい。

今回もそうでした。
今まさに「送ります!」と言われてから、待つこと実に6時間。
そして、さらに継続中なので、下手すると2〜3日来ません。

そば屋の出前の「今出ました!」の方がず〜っとマシなんですよね。

これも、広告業界あるあるなのかな?


だからわたしはカレーを作る(マッサマン)

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待ち時間、それはとても勿体ない。

6時間ただ待っていたわけじゃないよ?
途中何度も状況確認はしているのです。

そもそも後行程を考えると、実はもう時間切れ。
この後無事に原稿が届いたとしても、その段階でスケジュールの組み直しをクライアントに言いつけなければ……。

つまり「お宅の商品、発売日変更しようね」って話しを。

それはそれとして、勿体ない待ち時間。
わたしはカレーを作ることにした。

なんだろう。
煮込みたくなった。何でも良いから。

そして、わたしのような野郎がひとりで、このやるせなさをぶつけながら煮込むには、そこには必ず必要になる物がある。

そう、スパイスだ。

だからわたしは、この待ち時間でカレーを作ることにした。



野郎カレーってのは、こういう物だ!

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そして部屋に立ちこめるのは、通称「世界一美味しいカレー」。

タイ北部の名物、マッサマンカレーをグツグツと煮込む匂い。
ココナッツミルクと、タイっぽいスパイスの混じり合った素敵フレーバーだ。

具材はなんでもいい!!
もう考えるのも面倒なので、普通に日本のカレーみたいに、ジャガイモ!にんじん!タマネギ!

オールスターだ。カレーの具材オールスターである。

ふと気付く。
「そういえば、確か豆入ってたな。以前食べたのには」

ミックスビーンズの出番だ。
何の豆が入っていたのか、ググればすぐわかる。

だがこちとら、野郎カレーだ。

どの豆か分からないならば、MIXされた物をいれる!
何か当たりがあるだろう。

肉はチキンだ!
何となくだけど、タイと言えば鶏肉のような気がする。

あとは黙々と煮込む。

待ち時間のつらさをぶつけるように、待ち時間の分だけ煮込んでやろうと思った。
「煮込めば煮込むほど美味くなるからな!」つって。



カレーが出来ても、原稿は届かない。

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だが、その作戦「待ち時間分だけ煮込む」はその完了を見ることはなかった。

むりだよ。
原稿来ないもん。

そんな何時間も煮込んでたら、具も全部溶けちゃうよ。
その前に、ちょっと水分飛びすぎて、鍋の中の量が減ってた……。

そんなわけで、適当な所で煮込みミッションを終了したわけだ。
煮込みすぎにビビったんだよ。

チキンだけに。

とりあえず、出来たてを食べながら。
未だ原稿は届かない。

熱血バトル! vsクライアント様 事件。

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とはいえ、よくあるデスマーチ。

あれは……そう、とある年の瀬。
それも本当にギリギリの締切直前。
徹夜もこの夜で4日目。

事務所内には、僕と先輩ディレクターの2人。

眠気にあらがう様に、そして何処から何処へ向かっているか分からない怒りにも似たエネルギーをぶつけるように、事務所内には大音量でゴリゴリのヘビメタ曲(Slipknot)が流れていました。

お互いがお互いの仕事に没頭。

やたらと怒り狂った曲(Slipknot)とキーボードを叩く音。
マウスのクリック音と、栄養ドリンクの瓶を開ける音。
部屋の中にはしばらく、そんな音だけが響いていました。

チラリと見やる時計の針は、すでに午前の5時を回っています。

僕「パイセーン!! 担当さんが取りに来るまで……あと3時間です!!」

先輩D「……っつあーーーー!!! Macフリーズしたぁぁぁぁ!!!」

そんな文字通りのデスマーチも、いよいよ追い込み。
ラストスパートの阿鼻地獄。

とはいえ、このくらいの事でしたら、同業の皆さまにおかれましては比較的おなじみの「あるある〜」な、ただのノーマルデスマーチでした。




細マッチョは、空封筒の口を開けながらやってくる。

「おっはようございまーす!!」
某朝の番組の天の声みたいなテンションで、浅黒い肌の担当営業さんが事務所にやってきます。

空封筒の口をしっかりと開けながら。

時計は午前9時手前。

年の頃は40代半ばといった所。
細身長身、短髪に元気いっぱいの声。
熱血。

まあ〜〜〜〜〜〜……爽やかですよ。熱いし。
広告代理店の営業職としては、向いていそうな要素だらけ。

ここからは推測も交えつつ。
肌は浅黒く日焼けをし、ブルースリー型の瞬発力系マッスルをスーツの下に隠していますね。
そしておそらく、下着はブーメラン。

ともあれ、その瞬発力系熱血営業さん(修飾が多い)が封筒の口を開けて近づいてきます。

熱血営業氏「さあ、朝です!お疲れ様です!! 出来ましたか!?」

先輩D「出来ましたよぅ……。」

僕「もう1週間、まともに眠れずにやったので……。文字校正とか代わりにお願いします〜。」

熱血営業氏「うわ……。すみません。年末に無理矢理、来年1年分のパンフのデザイン案なんて。」

先輩D「仕方ないですね。あのクライアントさん、毎度こうですからね。」

などとやり取りがあったり無かったり。

そんなこんなで、無事に文字校正を終えた向こう1年分のパンフデザイン案をしっかりと封筒に収めた熱血営業氏。

熱血営業氏「では!行ってきます! おふたりの徹夜、無駄にしませんよ!しっかりプレゼンしてきますから!!」

いい人なんです。
ちゃんと、デザイナーの苦労に寄り添って色々してくれるし。

意気揚々と、熱血営業氏はクライアントの元へ出掛けて行きました。
そのしなやかな、肉食獣のような瞬発力で。

僕らデザイナーたちの努力と苦労をガソリンに、心に熱い炎をともしながら……。




不穏な気配。しかし僕らはフタをした。

気を抜いていた。

ええ、認めます。
僕も先輩Dも、すっかり気を抜いていました。

「熱血営業氏がプレゼンを終えて帰って来たら、来年の進行を確認して今年は〆だね!!」つって。
「忘年会とか、今から予約間に合いますかね〜?」つって。

だってしょうがないじゃない。
1週間のギリギリ追い込みを、今朝無事に終えたと思っていたのですから。

だって仕方が無いじゃない。
熱血営業氏の、あの出掛けのサムズアップ&ギラリとした笑顔を見てしまったのですから。

確かにその時点で不穏な気配はあったように思える。

僕「予定より遅くないですか? メールも無いですよ?」

先輩D「年の瀬最後だし、クライアントさんと他にも色々話すことあるんでしょ?」

いずれにせよ、僕らには待つことしか出来ない。
予定時間を随分過ぎても連絡が無いこの段階で、僕らの話題はまだ

「忘年会、予約しなくてよかったですね〜。」てなもんであった。

ほんと僕たちはそんな風に、不穏な気配に気付かないふりをしてフタをしてしまった。
「まさかの出来事なんて無い。」そう思い込みたかった。

今から思えばなんであの時、熱血営業氏の携帯にメールのひとつも送らなかったのか。

「何かありました?」って、どこか早めの段階で熱血営業氏と会話が出来ていれば、もしかしたらこの後の悲劇は防げたんじゃなかろうか。

嗚呼……。
振り返れば、その後悔はきりがない。



真夏が出掛けて、真冬になって帰って来た。そんな夕方。

時計を見上げれば、もう夕方の6時を回っていた。
熱血営業氏が意気揚々と僕らの元を出発してから、実に7時間。
「一度連絡しません?」なんて会話になり始めた頃だった。

……ガチャ。

瞬発力のかけらもない音。
全く勢いを感じさせずに、事務所のドアが開いた。

熱血営業氏「……ただいま戻りました。」

熱血営業氏の声は響き渡らない。
アノ瞬発力まみれの、熱血営業氏の声がだ。

たったそれだけ。
一人の営業氏の声が響かなかった。
ただそれだけ。

十分だった。
僕らが背筋に冷たい物を走らせるには。

先輩D「なにか……。ありました?」

熱血営業氏「……。」

僕「あ、とりあえずお茶煎れましょうか。」

熱血営業氏「いえ……。その。」

さほど長い付き合いというわけでは無い。
だから「こんな営業氏は初めて見る」という表現がこの場で使えるのかは分からない。

でも、尋常ではないという事くらいは分かった。
今朝、この事務所を出て行った彼の雰囲気。
それとのギャップだけでも、彼のこの姿は尋常ではない。

浅黒く日焼けした肌は、今朝は健康そのものに見えた。
今は、その黒さがどこか陰になって見える。

季節で例えよう。
朝、彼は確かにギラギラとした真夏だった。
真夏が服を着て、僕らの原稿を持って出掛けて行ったんだ。
ところが午後6時を過ぎた今、目の前には何故か真冬が鎮座している。

不思議なことにどんな角度から切り取っても、僕らの目の前に居る真冬の彼は、確かに今朝僕らの原稿を持って事務所を後にした、真夏の彼と同じ顔をしていた。



担当氏の独白。熱血バトル!vsクライアント様 事件。

そこからは、熱血担当氏の独白と、それを黙って聞く僕たちという構図だ。
空気は派手に動かない。

熱血営業氏「実は……。いや、まずは謝ります。ごめんなさい。」

先輩D「え?いや、何かあったのは雰囲気で察しますが……。まずは事情を。」

熱血営業氏「そう……ですよね。すみません。」

僕「……。ゴクリ。」

熱血営業氏「実は、クライアントとケンカをして帰って来ました……。」

先輩D&僕「「……えっ??」」

その言葉は、僕たちにとって想定外だった。
何かあったのは気配で分かっていたけれど、せいぜい「クライアントから更にとんでもない要望をされまして」とか、そのくらいだと思っていたから。

熱血営業氏「本当に、ごめんなさい。折角1週間も徹夜して追い込んでもらって……。」

僕「あ……いや。」

先輩D「……。」

その後、色々と言葉を交わし合った。
要約するとこうだ。

★僕らの作った来年1年分のデザイン案をまとめたプレゼン資料を、クライアントに説明。

★内容に関しては、クライアントも概ね納得してくれた模様。……だが。

★クライアント側の中のひとりが漏らしたひと言。
 「でも、このくらいのデザインなら余所でもっと安く作れますよね?」
★曰く「私ならもっと安く優秀なデザイン屋を使えますよ」といった主張で、
 「クライアント内のマウンティング行為のように思えた」と。
★そもそもこの1年分のデザイン案提出も、クライアント側から無理に頼まれた作業。
 しかも、これ自体には料金発生していない。
★熱血営業氏は、今朝まで1週間の地獄進行を乗り越えた僕らの事を思ったそうだ。
★そして、その社内同僚に向かってマウンティング行為をしようとした方に向かってカッとなった。

といった具合であった。
このくらいなら、僕らとしても「そんな怒らないでも……。」と、逆に思ってしまうんですがね。
でも、おそらくこれもそれなりにオブラートに包んで話してくれたはず。

正直、クライアントとケンカをして帰って来て、それによって1週間の地獄進行が全部無かった事にされたのは、簡単には飲み込めない。

でも、それでも熱血営業氏に怒りを覚えないのは、僕たちデザイナー側の苦労を自分のこと以上に考えてくれた結果だから。

事件としては、ただそれだけのこと。

クライアントさんとの間でも、少しギクシャクしたのはその「マウンティング氏」とだけで、直後は少しだけお仕事は減ったけれど、取引自体は継続してもらえました。

それから数年かけて、取引案件の数もジワリと増やすことになります。

あれからそのクライアントさんと料金で揉める事が無かったのは、もしかしたらアノ時の熱血営業氏の功績なのかもしれません。

「それ、僕のデザインなんですが……」事件

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よくある話しではあるのです。……が。

今まで僕の上を通り過ぎて行った様々な事件たち。
その中でも、まぁまぁ記憶に残っている「自分のデザインを真似する依頼」が来ちゃった事件について書いてみようかしらと。

デザイナーあるあるだったりするかもしれないですが、時折あるやり取り。

★代理店担当さん「あの〜。このチラシっぽいデザイン、真似して作れますか?」

★デザイナー「いいですけど、さすがに丸パクりは無しですよ?方向性ですよね?」
★代理店担当さん「いや〜。クライアントが“このデザインで”って言ってたので。」
★デザイナー「ちょっと、クライアントと直接話しますわ……。」

何度もあります。
「同じの作ってよ」系依頼。

さらに時折「見本と同じの作ってもらうだけだから、安くできるでしょ?」がセットになったりね。



で、とうとうこんな依頼が。

ある日の午後。
懇意にさせていただいている広告代理店の某担当氏が、新規案件の相談にやって来ます。

「じゃあ、お茶持ってくるんで座って待ってて〜」なんつって、いつも通りに対応を。

担当氏も慣れたもので、いつもの席に座りつつお茶待ちの間に資料を一通り広げて待ち構えます。

そして、いつもの如くいつものテンションで始まる打ち合わせ。

担当氏「実は、お客さんからこれと同じ物をと言われまして……。」

「ああ、またなのね」と担当氏が取り出す“参考資料”をのぞき込みます。

テーブルに出された参考資料のパンフレット。
見覚えがある。あるっていうか……。

かもねぎ「これ?」

担当氏「こっそり、同じデザインで作れます??」

かもねぎ「作れます?もなにも……。」

目の前に出されたのは、以前僕がデザインを担当したパンフレット。

そう、自分のデザインのパクり依頼が、自分の所に回ってきたのです。



この件のオチは、たいしたこと無いんです。

結局、最終的には「こういう方向のデザインを新規で作るって事でいいですね?」と、再度クライアントさんと打ち合わせをさせていただいたり。

そう苦労せずに納得してもらえたので、その後さらに面白い展開とかは無かったです。

全く別クライアントの案件でありましたし、さすがに自分で作ったデザインを余所に流用しておいて「偶然似ちゃったね〜」なんて言えないですしね。



偶然似ちゃったね論。

ていうか「偶然似ちゃったね〜」は出来るだけ避けるようにしてますよ?もちろん。

とは言え限界ありますけど。
ほんと、偶然ってあるし。

そもそも広告デザインの世界には「その業界っぽさ」とかあるんでね。

斬新なデザインで、しかも一目で説得力があるなら最高。
でも、チラ見しかされない広告デザインって、やっぱり「それっぽさを利用する」ってのもあるじゃないですか。

例えば、ぱっと見で物件写真に青空なビジュアルどーん!で「あ、不動産広告か〜。どれどれ〜?」っていう心理的導線。

広告デザインって、そういうのものすごい使う。
「まず大声で言いたいことを言う!」っていうやつ。

さらに例えば、北海道のお寿司屋さんが東京のイベントに出店すると仮定して。
その時に、チラシ配るとしましょうか。

北海道の大自然と、魚の新鮮さアピールのための市場のビジュアルとかを前面に出しても、何屋さんが何を言いたいのか、イマイチぼやけるですよね。

やるなら定番だけれど、寿司職人さんのビジュアルをメインにして、後は背景にお好きな北海道の大自然とか市場とか使えば良い。
少なくとも1秒で「お寿司屋さんのチラシだ!」って分かる。

そういう「この業界なら、この形よね!」っていうのは、積み重ねてきた刷り込みなので使えるならば使えば良いと思うのです。

ただ、逆に僕たちデザイナー側が気をつけなきゃいけないのは「それっぽさ」だけを使ってしまって「偶然似ちゃった」を何度も繰り返しちゃうところかな〜?

さじ加減のお話しなんですよね。
噛み砕いて言っちゃえば。



パクりデザイン依頼って、結構こんな感じだったりも。

閑話休題。

そういう意味で、クライアントさん側からも、自分なりに好きなデザインや作って欲しいデザインの方向性を持ち込んでもらうっていうのは大いに有り。

打ち合わせ早いですもんね!その方が。

あと、毎度そういう「パクり依頼」をしてくるクライアントさんと話しをさせていただくと、その手のクライアントさんって、上司と現場担当者の間に会話が無い……。

僕らは基本的には(どうしても話しが通じない場合はちょっと別)、現場の担当者さんと打ち合わせをしてお仕事をします。

で、「パクってください」って言ってくる現場担当者さんは、大抵「でも上司命令でして……。」って言ってくるんです。
「現場の私には、上司の意見を曲げる権限がありません」つって。

でもほら、ホントにパクれないじゃん?
んで、お話しが進まなくなると僕らに残された道は2つ。

  1. 丸パクりのデザイン案を出しつつ、ちゃんと「方向性だけ汲んだデザイン」案も同時に出す。
  2. 「とりあえず上司だせや」という事を(オブラートに包んで)言う。

大抵のオチはこんな感じに。
上司は「こういう(雰囲気)の作ってもらおう!」って言ったつもりでいて、部下は素直に「こういうのですね!依頼してきます!」っていう、クライアント内部での行き違い。

でも、結局は「方向性は汲む」まではします。
やっぱりさじ加減を間違えちゃ危ないだわ〜っていうだけのお話しですよね。


よろしくお願いします。
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プロフィール

かもねぎデザイナー

日本のどっかで、細々と生きている自営業デザイン屋さんです。
コピー書いたり、ディレクションに首突っ込んだり色々して何とか生きています。

先に言い訳を……。
あくまでも、デザイナー視点の勝手なお話しです。クライアント様にはクライアント様なりの事情がおありなのは重々承知。承知ですが、ここはあくまでもデザイナー寄りの主観です。ご容赦ください。
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