2018-07-11_A

第1話 「PhotoShop」それは、魔法の合い言葉

「PhotoShop」という単語には、どうやら魔法がかかっている。
そう思っている人が一定数いるらしい。

デザイン業界で仕事をしていて、直接クライアント様と打ち合わせをする人ならば、そんな場面にはもう何度も遭遇していることだろう。

PhotoShopとはなんぞや?という事をざっくり触れておこうと思う。
通称「フォトショ」。
名前から推察できる通り、写真を色々といじくり倒せるアプリケーションだ。

それはそれは、なかなかパワフルなやつでして、きれいな風景の中に映り込んだいらない要素を「お前いらない」つってキレイに消し去ってしまったり、昼間の写真を夕方に変えてしまったり。

最近気になりだした二の腕の余計なお肉も、あっという間にスッキリと。

あんな事もこんな事も思いのまま!
そう、PhotoShopならね!!

CM見る限りでは、まさに魔法です。

言ってしまえば、CMが悪い。



第2話 起こした奇跡の代償は?

たったひとつの魔法のアイテムで、今まで何度も奇跡を起こしてきた。

真冬の温泉宿のパンフレットを作っていたあるとき、クライアント様から送られてきた1枚の露天風呂写真。

真冬のパンフレット制作中なのに、そこに写るのは真夏の空。青々とした立派な葉を茂らせた木々。
そしてメールにはひと言「雪化粧おねがいします。」

そして僕らは、クライアント様のその夢を必死に叶えた。
窓の外ではセミが鳴いていた。

またある時は、真っ昼間の太平洋にクルーザー。海も空もキレイな青。
そんな写真を渡してきて「夕方にしてください。」

そして僕らは、クライアント様のその夢を必死に叶えた。
時刻は深夜。窓の外はとうに夕陽など沈んでいた。
終電は諦めた。

とにかく僕らは、PhotoShopの無限の可能性を信じて、クライアント様の夢を叶え続けた。
そしてそれがいけなかったんだ……。

少しずつ。
夢を叶える度に、ほんの少しずつ。
クライアント様の態度に「PhotoShopで簡単に」といった匂いが滲み始めていた。



第3話 とんち合戦勃発

といった具合に、目の前で数々の奇跡を起こしてしまったが故に、回を重ねる毎に「頼めば何でも叶う」かのような態度を表し始めたクライアント様。

そしてその日はやってきた。

「この写真の、この赤いコートの人いますよね?この人、振り向かせてもらっていいですか?」

耳を疑った。
普通に「ん?」って聞き返した。
真顔で。

差し出された1枚の観光地写真。
そこを、手前から奥に向けて歩いている赤いコートの女性が写っていた。
その女性を指さしながら、クライアント様は当たり前のように言うのだ。

「この女性、こっちに向かって歩いてる形にしてください。」

色々と頭の中で実現への道筋を探してしまった自分も自分ですが、色々と考えた結果、僕は……。

「それでは、私がここでカメラをもって待ち構えていますので、クライアント様はこの女性に手前に向かって歩くように指示をだしてください!さあ!」

と、言ったとか言わなかったとか。

お後がよろしいようで。