2018-09-02_A

ミスはすぐそこに。

広告デザインなんて稼業をしていると、洒落にならないようなミスとは常に隣り合わせ。

この業界、ホント綱渡り進行が多いのです。
印刷入稿30分前に、クライアントさんの上層部から大型修正が飛んできてバタバタしたり(それでいて納期は当然ずらしてもらえない)。

印刷が全て済んでから追加修正が届いて、ちょっとした口論になったことも。
タイムマシンを用意してから来い。

数えだしたらキリが無いのでこんなもんにしてやろう。

とにかく、入稿直前は睡眠不足でフラフラなのに、そこに急遽の修正がバラバラ、バタバタと届くので、実はノーミスの方が奇跡かも?っていうくらい。

そんなシリーズで、過去もっとも「やっちまったな」感が強かったミスを思い出してみよう。




通信販売カタログで、最も大事な箇所ってどこだ?

あれは、そう。
某小さな通信販売会社の、会員向けカタログを発行しようっていう案件だった。

連日の徹夜続きで感覚は麻痺していた。
そのせいか、季節は覚えていない。

通信販売のカタログ制作で、もっとも気をつけなければならない箇所ってどこだと思う?

写真の見栄え?
わかりやすい導線を備えたレイアウト?
人によっては「配色こそ全体のイメージを……!」とか言い出すかもしれない。

確かにそれらは全て大切。
……だと思う。

ただキミ達は「これだけは絶対に!」っていう箇所を見落としている。

それは……。
「商品注文用の電話番号」だ!!!

2018年の今であれば、通販もほとんどがネット通販かもしれないが、あの頃はまだまだ通販カタログをめくりながら欲しい商品があれば電話で注文という、優雅なお茶の間スタイルが幅を利かせていた。

カタログのキャンペーン期間中ともなれば、通販会社も気合いを入れてオペレーターの増員なんてしちゃったりして。
まあ、とにかく鼻息を荒くして待ち構えていたりしたわけだ。

そして、その全ての入口になるのが「電話番号」だ。

もうお気付きだろう。
そう、私はやらかした。

通販カタログの注文用電話番号の誤植を!!!

……とはいえ、これって私のせいでも無かったんだけど。




忠告だ。クライアントからの最終原稿は捨てるな!

このカタログ自体なかなかのデスマーチ進行で終わらせたわけだが。

兎にも角にも、本当の地獄はここからだった。

向こう3日間のキャンペーン期間。
まずおかしいと思ったのは、開始のわずか数分後らしい。

いつもなら、オペレーターさんが一気に対応を始めるのだが、この日はまったく注文が来ない。

そして、悪夢のような知らせはやってくる。
やたらと、その通販会社の代表番号が鳴るというのだ。

立ち止まっている場合じゃない。
キャンペーンも始まってしまったので仕方が無い。

かくして、オペレーターさんでも何でもない内部の事務の社員さんが、できる限り注文を取るという地獄が始まった。

そしてさらに数分後、クライアントからお怒りの電話。
最初から訴える気を隠そうともしないテンションで。

クライアント
「もしもし!おい!!!カタログの電話番号、代表番号じゃねえか!!!損失どうしてくれんだ!?」

「(体中の体温が下がるのを感じながら)……え?」

クライアント
「オペレーターも無駄。事務所も電話応対で仕事ストップだぞ!」

私(社内の校正マンとアイコンタクト&筆談)
「え……とですね。頂いている最終原稿が手元にあるのですが、刷り上がりと見比べてもミスは無いようですが……。」

クライアント
「……あ??」

「まさか、御社の原稿が間違えてましたか??」

クライアント
「…………。あとで、損害の分担について話したい。……来てもらえますか?」




いいや、10:0だ。……と、したかったが。

と言うわけで、怒濤の3日間のキャンペーンが終わった後、改めてクライアントの元へ赴いた。

先日、引くに引けなくなったクライアントからの呼び出しに応えるためにだ。

カバンの中には、証拠となるクライアントのミスが残った最終原稿。
ちゃんと時系列が分かるような、やり取りのメールの出力。
最後の最後に届いた、クライアントチェックの赤字校正紙。

「これだけあれば、間違いなく……クライアントの息の根を……。」

後は駆け引きだが、赴いた際すでにクライアントの鼻息は収まっていた。
どころか、電話で怒鳴りつけてきた事に対する罪悪感すら見て取れた。

ところが、相手も会社を背負った会社員。
上層部から言われているのか、とにかく5:5の損害分担をとジャブを撃ってくる。

こちらとしては冗談ではない。
はっきり言って「原稿に載っていない情報なんぞ知るか!!」なのだ。

気分は10:0だ。
過失は100%クライアント側だ!!!

……と、そのつもりで乗り込んでいたのだが。
話し合いをしているうちに、こちらが攻めすぎたのか目に見えて沈み込むクライアント。
(もちろん、それが作戦なのかもしれないが)

そして、敢えてその場では言わなかったが、私も気がついた。
「代表番号なら、最初にもらった名刺に書いてあるから……。こちらでも気付きの可能性はあったのか……。」

この案件、実は担当氏と携帯でのやり取りに終始していた。
そのため、名刺に載っている代表番号に接する機会がなかったのだ。

別の案件では、カタログの番号に試しに電話してみるというテストもするのだが……。

この案件に関しては「まだオペレーション会場の準備が」だとか、とにかく時間が無いだとかで「数字周りとか特に、最終チェックお願いしますね!」と、クライアント側に任せてしまったのだ。

それも、確認を最後までもっともっと強く押しておけばよかったといえばよかった。

そして譲歩。心の中の気付きは敢えて伏せて。
あくまでも恩に着せるスタイルで。

私は言った。
「では、9:1で。」